ロングインタビューの二回目は、充実のよしワールド、『潮風がいっぱい』『BOOBOO』『春・る・る・る』などについて語っていただきました。
(取材インタビュー『まんがのほし』編集部)
はじめてのファンタジー『春る・る・る』!
――よし先生の中で、ですよね。それから、『春・る・る・る』ですよね。
よし: これは100ページだったんで、もうページが多くて…。
――1回でですか。
よし: 1回で100ページ全部載りました。ちょっと無茶な企画だと思ったんですが、それまで読み切りをいっぱい描いてきて、帯に短し襷に長し。その中でポロポロとこぼれたようなのを全部掻き集めて、オムニバスにしちゃえって。
――これって、今までの系統とちょっと違ってますもんね。
よし: そうですね、ファンタジーを描きたかったんですよ。初めてファンタジー。
――なんか色んな小さな話があって、それが、まあオムニバスなんだけど、ひとつのまとまりが…。
よし: 実は全然まとまってなくてバラバラなんですけれど、全部無理やりファンタジーのくくりに入れてしまったっていうかんじでしょうかね。ファンタジーっていうより、世にも奇妙な物語とかミステリーゾーンとか、あのへんに近い感じをやりたかった。
――世にも奇妙な物語…。
よし: 世にも奇妙…はまだ当時やってなかった。ミステリーゾーンですね。ミステリーゾーンなんかが好きで、ちょっとそういう不思議ばなしみたいなものに挑戦しました。
――その後に、『星のステーション』。これも京浜急行ですね。これは最後まで今回の蔵出しベストに入れようかどうしようかって…。
よし: 最後まで悩みましたね。『潮風』じゃなければこちらが入ってた、いや『地下室の四季』じゃなければこちらが入ってたかんじでしょうかね。ページ数的には近いので。
恋愛で、女の子がとにかくわがままです。スランプになるとわがままな女を描いてしまうんです。わがままな女を描いてると気が楽でした。本性なのか願望なのか…。
――どっちかっていったらわがままですね。
よし: ただこの作品を読んだ読者さんからの反応で意外だったことがあって。ラストの方で女の子が反省して、男の子にもう行かないでって泣く所があるんです。それまで言いたい放題の勝手なことばっかり言ってたのが、男の子が戻ってきたらもう行かないでって泣きながら頼んでるのを見て、私はどっちかっていうと「ほら、この女はちゃんと反省してますよ。だから許してやって下さいね」…と、勧善懲悪のつもりで描いてたんですけど、読者からは「女の子が可哀相だ。反省する必要なし。全部この男が悪い!」ってお叱りの手紙が来て…(笑)。男がこの女の子を全部受けとめなかったのが悪いのだと。ああ、そういう見方もあるんだって驚きました。つまりこの女の子はわがままな方が可愛かったのかもしれない。この女の子が恋人だったら自分は全部許す…と男性から言われて、目からウロコでした。恋の不思議を垣間見た…?面白い経験だったと思います。
――男の読者から来たんですか。
よし: はい、男性から来たんです。
――そうなんですね。女性からしたら視点が違うんでしょうか。
よし: 女性はあんまり反応がなかったような気がしますね。明らかに男の子を振り回してる女の子を見て戸惑ったのかも…?
ぶっとばして描いた『潮風がいっぱい』!
――それでですね、潮風が…。
よし: 『潮風がいっぱい』が、その後になるんですね。『潮風がいっぱい』(『もう一度あいたい』収録)は、先ほど言ったようにもう時間がなくてぶっ飛ばして描いたっていうことで、でも、鎌倉を舞台にいちど描いてみたいと思ってたのね、写真もよく撮りに行きました。
(※『潮風がいっぱい』の作品解説、『もう一度あいたい』収録)
――それから、次が『イーハトーブの温泉宿』。
よし: これは盛岡旅行をして、宮沢賢治の世界みたいなのが本当にロマンティックでいいと思って、それとファンタジーと童話的なものを融合させて、しかもその頃ますむらひろしさんにハマっていたので、もう全部ごっちゃです。はい。とにかくごっちゃにしてもやりたかったですね。好きなもの全部詰め込んじゃったんです。
――次が、『嘘八百屋』なんですけれど。これも今回の本に、最後まで入れようかどうしようかっていうかんじだったんですけれど…これは思い出深いというか印象深いんでしょうか。
よし: どっちかっていうとスランプの時期だったんですよ。話を読むと今でも構成が悪いなあと思います。ただ、『イーハトーブ』のあたりから変なおじさんみたいなのが好きになってて、変なおじさんばっかり描いてたっていう。『嘘八百屋』も変なおじさんが出てくるんですけれど。その変なおじさんが魔法をかけてくれるみたいな、そういうイメージで描きましたね。特にその頃古道具屋さんも好きだったので。
――テレビドラマ化されたんですよね。
よし: フジTVの『世にも奇妙な物語』で、西村知美さんが主演で、なりました。
――単行本にも何回も。
よし: 2、3回単行本化されていると思います。オムニバス的なもの、アンソロジー的なもの、という括りで。
――原作付もありましたよね。
よし: はい、その頃の私はがんばってる割に世間的にブレイクしないというので、編集部がなんとかしてプッシュしようとしてくださったんだと思うんです。新井素子さんの『星へ行く船』をコミカライズ化をやらせていただいたんですが、ちょっと原作付きっていうのは大変だったですね。自分だったらこうするっていうのがどうしても出てきてしまって。ただあの、自分ひとりでは絶対できないような世界を描けたんで、面白かったと思います。
――新井素子さんはこの頃すごい人気がありましたね。
よし: もう神様みたいなかんじだったんで、本当にやっちゃっていいのかなあっていうかんじで。すでにイラストは竹宮恵子さんが描いていてイメージが固まっていたし、新井さんのファンに叱られるのも怖くて…緊張しましたね。
――それからあれですね、『朝まで待てない』を連載されて。
よし: 『朝まで待てない』…この頃は漫画家になって描きたいものが全部終わっちゃった後で、その後どう描いていけばいいかわかんない、方向性にちょっと悩んでた時です。
元気でおしゃれな『BOOBOO』!
――『BooBoo』が…。
よし: あれ?『BooBoo』が抜けましたね。なんで抜けたんだろう。『BooBoo』はその前です。
――『潮風がいっぱい』の後が『BooBoo』のはずです。
よし: このリスト、ホチキスで止めとく?『イーハトーブ』・・・『春る・る・る』『潮風がいっぱい』の後が『BooBoo』だったかな。えーっと『BooBoo』は、比較的勝負に出た漫画ですね。最初から、もうこれはもたもたしてないでドカンといこうと。無茶苦茶おもしろくて可愛くてお洒落な漫画を描くんだ! みたいなかんじで。横浜はもうやめ!御茶ノ水とか水道橋とかあのへんで行こう!って(笑)。まあどっちにしろ集英社の近くでその辺から離れられないんですけれど。とにかく気合い入れてました。
――横浜はなんでやめたんですか?
よし: だからもうそれまで横浜でずっとやってきて、いまいちだったんで、今度はもう私は生まれ変わった、絵ももうとにかく可愛くお洒落にやるのだ~って固く決心して、編集のほうもかなりプッシュしてくれてたんですが、いつもと大して変わらなかったかなと…(笑)。
――すごいもうファンもついて。
よし: まあ…(笑)。このときはアンケートなんかも非常に安定して常に3位に入ってて、元気だけは伝わったかと思います。
――1位も…?
よし: 確かとったと思います。これも週刊連載なんで。今考えればもっともっと10巻でも20巻でもやればよかったんですけれど、やっぱりだんだん体がもたなくなってきて息切れが…・。
――4巻ですよね。
よし: そうですね、せめて10巻やるべきだったと思ってます。
――10巻やろうと思ったらできましたか。
よし: 出来たと…思う。いま思えばもうちょっと大ネタを投入すべきだったというか、それこそまつもと泉さんじゃないですけれど、超能力者とか、そういうのが入っちゃってても良かったと思うんですよね。
――大ネタを…(笑)。
よし: 大ネタを、ちょっと入れるべきだったと(笑)。
――でもすごい人気作で、よし先生の代表作のひとつみたいなかんじですよね。
よし: ありがとうございます。本当にギャグとか考えるのが楽しくて。主役の『BooBoo』ってのは動かない子なんですけれど、相手役がめちゃめちゃ動く男の子だったんですごく作りやすかった。女の子がうじうじしてると男の子がバーンってドアけやぶって入ってくるようなかんじなんで、漫才コンビみたいで楽だったです。
――これは読者は女の子が多かったんでしょうか。男の子も結構多かったんですかね。
よし: そうですね、これもやはり男性の読者の方が多かった気がします。
――男性読者に人気にありそうな女の子がわりと主人公になってるかんじですかね。
よし: はい、だから少女漫画ではなく、中性的な…当時そういう雑誌があればそちらに描いていたかもしれません。完全に少女漫画というには括りがちょっと違うかなあと感じていたので。
――少年漫画というかんじでもないですよね。
よし: もし少年漫画のくくりだったら、もっと六田くんを活躍させて、あの、ほんとにラブコメ、男の子の読むラブコメとして描いたかもしれませんね。
――ラブコメですよね、これ。
よし: 完全なラブコメです。しかもギャグのはいった。ええ。美しい王子様みたいなかんじじゃないんですよ。とにかくパワフルな男の子が出てくるんで。そういう意味ではやっぱり少年漫画っぽかったのかなあという気がしますけども。
――女の子の友達も、キャラが立ってますね。……なんでしたっけ。
よし: ともこちゃん。あと、男の子のほうの、六田くんの友達の松竹谷くん、南部くんの3人いるんですけれど、要するに3バカっていうのが好きなんです。『潮風がいっぱい』も女子の3バカいましたよね、主人公と、あと二人、女の子の友達が。三人でいつもつるんで歩いてるみたいな。ロクタくんもいつも三人でバカ騒ぎしてる、みたいなかんじで、うてなの結婚でも3バカがたくさん出てくるんですけれど、3バカが出てくると安心して世界観を作れるんです。
――あの頃はたのきんトリオとかシブがき隊とか…。
よし: あー…でも私そこらへんはそんなにハマらなかったんで、三バカは何から来てるんだろう。欽ドンでもないし…。自分の経験からかなあ。なんで三バカじゃないといけないのか…。四バカじゃないんですよね、二バカでもないし。三バカなんですよね(笑)。考えてみます。
――星へ行く船は…。
よし: 『BooBoo』がこれまでになく人気が出たときにあえて原作付きのっていう形に…。
『BooBoo』が思ったよりもブレイクしなかったからだと思います。だから今度こそっていう形だったと思うんです。これ、アニメの予定もあったんです。そのくらい『マーガレット』ですごいプッシュしてくれて今度こそアニメ化とかして有名になりましょう!ってなったときに、私がやはり、原作付きは厳しいということで、降りちゃったんで、この後いよいよ行先っていうか方向性に迷いました。『マーガレット』でもっともっと活躍出来ていればばこんなに悩まなくて済んだんだと思うんですけれど。少女漫画としてはやっぱり自分はダメだったのかなと…。
――そうなんですね。すごく、面白かったんですけどね。
よし: 当時としてはやはりもうちょっと絵がうまくて柔らかい少女漫画の方が好まれたってことでしょうね。
――当時ってどんな少女漫画が読まれてましたか?
よし: うーん。『マーガレット』では塩森恵子さんとか、『伊賀野カバ丸』とか星野めみさん。
――『希林館通り』とか。
よし: 『りぼん』なんかでは、一条ゆかり先生、陸奥A子さん。萩尾睦美さん、小椋冬美さんとか…華やかな…。
――あ、岩館真理子さん。
よし: あ、岩館さんは、『マーガレット』です。あと、『ぶ~け』では吉野朔実さん、松苗あけみさん。やはりファッションと、感性が素晴らしい。あと他誌では大島弓子さんとか、成田美名子さんとか…絵もすごく繊細で美しい方が、売れっ子さんだったような気がしますけれど。いや名前を今すぐ出せなくても、もうたくさんの美しい少女マンガがあふれていました。
――えー、次が『朝まで待てない』
よし: 先ほども言ったように方向性に迷ってきたころで、もう、迷ったときはわがまま女を出せばいいやっていう、そのノリで描いちゃったんですけれど。これは本当に手がつけられない子になっちゃって、私が描いた中では最も性格が悪いんじゃないかな…。気が小さいくせになんでこんなに上から目線なんだろう(笑)。
――そこから今度は、『マーガレット』から『ヤングユー』に移られて、描かれるんですよね。
よし: ヤングユーが当時創刊されて、「少女漫画も大人になる」みたいなニュアンスで。創刊号からやってくれって言われました。
ちょうど私自身が迷ってた時期なんで、どこに描いたらいいのかわからなかった。だからまあ、集英社系だったら知り合いも多いし、いいかなと思って。
――それで、『マーガレット』に『羊たちの午後』。これは。
よし: これは私も記憶にないんですけれど、どんな漫画ですか?
うーん。最初の設定に踏ん切りがつかないまま始めちゃったっていうところがあって、始めてから別の設定入れちゃったりとかして…マズかったですかね。絵は楽しく賭けていたせいか悪くないと思ったんですが、話が…記憶に残らないものになってしまったか…。
――その後に、『サラダの時間』。
よし: 『サラダの時間』もわがまま系の女の子ですがもうちょっとこうニュアンスのある女の子を描こうと…繊細系です。
――あと、ビッグコミックスピリッツの『パンツが大好き』。
よし: これも、悩んでました。先ほども言ったように踏ん切りがつかないまま始めてしまって、それでやっぱりピンボケになってしまった。どうしても最初の設定に縛られてしまうので設定ミスを後で挽回しようとして終ってしまった。
――これは初めての男性誌ですよね。
よし: そうですね。講談社のモーニングとかにも描いてたんですよ。当時は、あちこちに描きまくっていた割には、単行本に全然ならなかったんであんまりお金も入ってこなくて財布の中がマズイ事に…(笑)。あちこち描いて、『ホットドッグプレス』や『non・no』などでイラストのお仕事もすごくやってたんですけど、全部本にはならないんで。
形にならない仕事を大量にしていた時期でした。
――なんかそれは、集英社だけじゃなくて別のところにも色々描こうっていうかんじになったんですか。
よし: そうですねー。描こうと思ったというより、探していたという感じでしょうか。
あっさりプロになってから10年経ってから自分探しが始まってしまったという…。
案外あのまま『マーガレット』にいて、腹据えて描いていたほうがよかったのかもしれないんですけれど、やっぱり小学生とか中学生の女の子向けではないんじゃないかっていう気持ちが先に立ってしまって。男性読者が前から多かったものですから、どっちかというと青年誌なのかなーどうかなーと。まあフラフラしてるとダメですね。
――この後はヤングユーに、『春来タリテ君ヲ待ツ』。
よし: これは、子供産んでからすぐ描いて、何がなんでも若さを失わないぞ!と頑張った作品です。大学入ったばっかりの女の子の話なんか描いちゃって、これはもうひとつの戦いだ! みたいな…(笑)。絶対、少女漫画でというか若い漫画で頑張ろうみたいな、決意表明のような漫画でしたね。
――これは、いま読めます?
よし: あーどこに入ってるかなあ。でもそんなに大した話じゃないですよ。
――え、でも決意表明で…。
よし: 決意表明で描いてるわりにはたいしたことないんです(笑)。
――読者から見たら違うかもしれないですね。決意表明といっても。次は『羊たちの午後』は。
よし: これはさっきも言ったように、行きつ戻りつになっちゃったかんじで、恥ずかしいんですけど…。まあでも、絵的には比較的充実した絵だったかなあとは思っています。
――それから、90年代にいって、『窓を開ければキミがいる』。
よし: ああ、ヤングユーですね。この頃はもう、結婚前夜みたいな年齢の人たちばっかり描いてた時期です。
――読者対象が上がったんでしょうか。
よし: 上がりましたね。10代から急に20代になりました。やっぱりどうしても結婚とか恋愛とか仕事とか、そういうものを柱にして話を作るようになってしまって、この頃かな、やっぱり昔のほうが、夢のある漫画が描けてたかなって思うようになったのは。現実はともかく、漫画の中くらい夢があったほうがいいよなあ…と漠然と思っていました。
インタビュー 第一回はこちらから
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