『夜を灯して』への想い・・・あれこれ。『夜を灯して』単行本化にあたって、著者の西造さんが、この作品への想いなどについて話してくれました。
ここでしか読めない特別インタビューです。
(取材インタビュー『まんがのほし』編集部)
——今回『夜を灯して』というタイトルの本を刊行させていただくことになりまして、このタイトルはどこから来たのか、お聞きしたいのですが?
西造: タイトルはまず読者さんがいちばん最初に触れる情報なので、とても響きがいいことを第一に考えています。いつも触れている言葉なんだけど、何か引っかかるものがある、という感じにしたかったので。暗い「夜」を「灯す」という矛盾した組み合わせと、その言葉自体の響きの良さから、これをタイトルにしました。
——夜のイメージについて、教えていただければ。
西造: そうですね、夜はやっぱり夜なんです。ストレートに死を連想させたいのもありますし、ちょっと冷たい、温度がない感じとか、思い出とか、昔のこと……。星の光っていうのは今光っている星の光が届いているわけではなくて、すごく昔に光っていた光がここに届くっていうじゃないですか。そういうふうに過去や死を連想してもらいたくて、夜という言葉を使いました。
——ひとつひとつ作品について伺います。
『FLICK』はどういう作品ですか?
西造: 今回掲載していただいた過去の作品はどれもある女性むけの漫画雑誌に投稿するために描いた作品でした。『FLICK』はその中で初めて描いた作品です。初めて漫画っていうものをきちんと描いてみようと思ったのですが……画材の使い方とかすごく荒いですね。でも人に読ませることを意識せず、自分の中にあるものを表現したいっていう気持ちだけで描いたものなので、私の根本にあるものが現れているかもしれないです。
——根本とは描く動機ですよね?
西造: 描く動機は、かっこいいお兄さんを描きたいなあくらいしか考えてないんですけれど。かっこいいお兄さんを描いているうちに、かっこいいお兄さんには暗い過去がないといけないとか、死の気配がしてないといけないとか……それが結局、死や愛や寂しさを描くということになりました。描ききってはじめて、ああ私はこれを描きたかったんだなぁと気づいた感じです。その後の作品も、かわいい女の子を描きたいとかいいながら、結局最終的に描きたかったものは人の後ろ側に立っているそういった暗いものたちでした。だから……「動機」とは少し意味がずれますね。
——それではじめて書かれた?
西造: そうですね、画材の扱いも分からなくて大変だったので、よく憶えています。
それまでは殆どノート漫画しか描いたことがなかったんですけど、その『FLICK』を描くちょうど半年くらい前に同人用原稿用紙に初めて漫画を一編かいてみたんです。高校生だったんですねその時。で、高校生対称のコンクールに出したら小さい賞をもらってしまって。わたし漫画描けるじゃん! と思って。それが初めて描いた漫画ですね。
——そして次の作品ですよね。
西造: 『トレモロ』ですね。『トレモロ』は、ファンタジーを描きたかったんですけどなかなかファンタジーって背景とか難しくって……そこはうまく描けてないところが目立っています。ただ、収録していただいた作品の中ではいちばん気に入っていて、キャラも自分なりにがんばったデザインをしたので、気に入っています。自分のキャラクター達の中でいちばん好きです。自分の中では設定がすごくうまくいったと思うんですよ!
——いいですよね! この『トレモロ』というタイトルはどちらから?
西造: 『トレモロ』は音楽用語です。
設定上では、作品の中で弾いてる曲って一曲だけなんです。その曲は、テンポの速いトレモロの曲という設定で、『トレモロ』とつけました。
——なるほど!
西造: 私はピアノを結構長い間、10年くらいやってました。
——そうなんですね。
西造: あまり勉強熱心じゃなかったのでピアノ上手じゃないですし用語も詳しくないんですけれど。音楽用語ってすごく響きがいいんですよね。用語の時点で響きが音楽的でかっこいいなって。なので、単語に困ったときは音楽用語を持ってくる癖が……。
——いろいろな作品に?
——『dearest』について教えてください
西造: 『dearest』はその時投稿した中ではいちばんいい評価をいただいた作品です。双子とかいいじゃんみたいな評価が付いていましたね。
——そうなんですね。
西造: 好き勝手、手探りで描いていた当時の作品の中ではかなり読者さんを意識して構成出来てたんじゃないかなとは思ってます。
——なるほど、ネームなんかも?
西造: そうですね、ネームはすんなりできたかもしれません。
——ネームとキャラクターはどちらが先ですか?
西造: キャラクターを作ってからネームをやります。
——まずキャラクターを
西造: そうです。
——伝えたかったテーマについて教えてください
西造: やっぱり読者さんをすごく意識しているので、自分の方から発信するテーマとしては「双子いいよね」、くらいしかないんですけれど……。『dearest』はオチの部分で壁一面を青空に塗ったよっていうコマがあるので、漫画の視覚的な構成については少し工夫できたかなと思ってます。
——ラストですね。
西造: そうですね、視覚的な工夫がテーマといえるかも知れません。
——『ゆめのうらがわ』について教えてください
西造: 『ゆめのうらがわ』は、その投稿時代の最後に描いた作品です。画材の扱いも最初と比べれば上手くできるようになってると思います。背景がすごく苦手だったんですけれどかなり丁寧に描いたほうです。これぞ私の完成形と思って出したんですよ、そうしたら今まででいちばん評価が悪かったんですね。読者さんを意識しないつくりになってたのかもしれません。私の独りよがりに傾倒しちゃったのかなとは思います。キャッチーな要素が入ってないので。そうですね、出てくる男の子キャラが恋愛対象じゃない所なんかが、マイナスだったと思います。女性むけ雑誌だったので。
——おもしろいのに……?
西造: そうですか? ありがとうございます。
——ご自分では満足のいく?
西造: それはですね、すごく調子よかったわけではないですけど、わりと着実に描けていた感じです。いちばん着実に描いてると思います。しっかりしっかり描いていきました。
だから満足していましたし、自信もありました。でも評価が低くてがっかり……結局これを最後に一度漫画を描くのをやめてしまいました。次に描いたのは三年後くらいだったかな? 世叛が作った話に絵をつけてほしいというので描いたという、受け身な再スタートでしたが、一人でやっていたときとは違った面白さがあります。
でも、自分のストーリーを褒めてもらえると、やっぱり嬉しいですね。ありがとうございます。
——今回、タイトル作で単行本書下ろしが収録されていますよね。
西造: はい。『夜を灯して』です。
——その『夜を灯して』について教えてください
西造: 『夜を灯して』は、世叛に原作を描いてもらいます。そうですね、夜の中でしか見えないものがあるというのがテーマです。冒頭に『夜を灯して』のカラーバージョンがあるんですけれど、無言劇になっていて、そこでは夜のランプを女の子が照らしていくと、夜の中でしか見えない過去のこととか、今は苦しいけれど根本には幸せなことがあるとか、そういうのが見えてくるという内容になっています。もうひとつ同タイトルで短編を書く予定なのですが、そちらは娘を亡くした男が、自分でその人形を作って何らかの形で娘を取り戻そうとする話です。でもお人形はお人形以上にはなりえないので、なくしちゃったものを悲しむ話です。取り戻そうとするけどなくしたものはなくしたもの。しかし落ち着いて夜のほうに目を向ければ確かに在ったもの、というのがテーマになってくると思います。
——喪失の物語……?
西造: そうです。
——いまcomicoさんで連載中の『遠くの日には青く』
西造さんと世叛さんの世界が繰り広げられている素晴らしい漫画だと思うのですが、この『遠くの日には青く』の読者のみなさんに今回の『夜を灯して』について、おっしゃっていただければ……。
西造: 『遠くの日には青く』とはまた違ったアプローチをしています。『遠くの日には青く』の延長線上にあるものではなくて、西造/世叛の新しい作品として楽しんでいただきたいです。
『遠くの日には青く』では『ラレンタンド』という短編のみ、原作から私が作っています。根本はこの短編と同じなので、この短編が気に入って下さった読者さんには、好きになってほしいな……なんて思ってみたり。
——『ラレンタンド』?
西造: はい。
——西造さんの新しい魅力の一冊ですよね。
西造: 『遠くの日には青く』とはまた全然違う作品集になると思うので、また新たな一面を見てほしいというところはあります。
——今回長いスパンの作品集ですよね。
西造: そうですね。途中『ゆめのうらがわ』を描いてから漫画を描くのをやめてしまったので、ブランクがあるんですけれど、えっと全部で七年分ぐらいですかね。
——七年とは?
西造: 最初に描いた『FLICK』が大学一年のときです。三年になる手前で『ゆめのうらがわ』を描きました。それからブランクが三年ほどあって、社会人一年目が終わるころに『遠くの日には青く』が受賞して連載することになり……連載するうちにいろいろあって今回の『夜を灯して』を描くに至りました。最初から今回の書き下ろしまでまるっと七年間です。いろいろあった七年でした。
——最後に一言お願いします。
西造: 作品集の内容は私の漫画を描きはじめのときのものなので、本当に拙いところもたくさんあると思います。世叛とコンビを組むまえのものがほとんどになるので、『遠くの日には青く』とは全然違う世界観だと思います。拙いですけどごまかしはないので、私の当時持っていたものを全力で出したもの、今はもう絶対描けないものなので、できれば寄り添ってみていただければと思います。
『夜を灯して』予約受付中。
この記事へのコメントはありません。